3Dプリントで試作を行う際、最も多く寄せられる質問の一つが「FDMとSLA、どっちが安いの?」です。しかし、単純に「安い/高い」で片付けられる問題ではありません。造形方式によって、コスト構造、表面仕上がり、強度、納期、適した用途が大きく変わるからです。本記事では、同じモデルをFDMとSLAで造形した場合のコスト比較をはじめ、それぞれの工法の特性と、用途に応じた選び方を徹底的に解説します。
FDMとSLAの基本的な違い
比較に入る前に、それぞれの工法がどのような仕組みで造形しているかをおさらいします。
FDM(熱溶解積層法)とは
熱で溶かした樹脂フィラメントを、ノズルから押し出しながら層状に積み上げる造形方式です。家庭用から工業用まで幅広く普及しており、造形コストが比較的低いことが特徴です。
- 造形原理:フィラメントを200〜250℃で熔融し、XY平面で描画→Z方向に層を積み重ねる
- 層厚:標準0.2mm、細かい設定で0.1mmまで対応可能
- 造形サイズ:小型機で150mm立方〜大型機で500mm立方以上まで対応
- 主な素材:PLA、ABS、PETG、TPU、ナイロン、PCなど
SLA(光造形法)とは
紫外線レーザーまたはLCDパネルで液状レジンを層ごとに硬化させる造形方式です。層厚が極めて薄く、滑らかな表面仕上がりが得られます。
- 造形原理:液状レジン槽に紫外線を照射し、指定形状を層ごとに硬化→Z方向に引き上げる
- 層厚:標準0.05mm、高精度設定で0.025mmまで対応可能
- 造形サイズ:小型機で120mm立方〜中型機で300mm立方程度が一般的
- 主な素材:標準レジン、高強度レジン、フレキシブルレジン、耐熱レジン、キャストレジンなど
同じモデルでのコスト比較
では、実際に同じモデルをFDMとSLAで造形した場合、コストはどのように変わるのでしょうか。以下に、一般的な試作ケースでの比較例を示します。
比較モデル:120mm × 80mm × 40mm の筐体ケース
| 項目 | FDM(PLA) | SLA(標準レジン) |
|---|---|---|
| 造形時間 | 4〜6時間 | 6〜10時間 |
| 材料費 | 約200〜400円 | 約500〜800円 |
| データ処理・セットアップ費 | 約1,000円 | 約1,500円 |
| サポート材除去・後処理 | 約500円 | 約1,000円(洗浄・硬化含む) |
| 合計(1個あたり) | 約1,700〜2,900円 | 約3,000〜5,300円 |
この例では、FDMがSLAより約30〜40%安いという結果になりました。ただし、これはあくまで一例です。モデルの形状やサイズ、数量によってコスト差は変動します。
コスト差が大きくなるケース
- 大型モデル:体積が大きくなると、SLAのレジン費用が急増する傾向があります。FDMはフィラメントの単価が安いため、大型モデルではコスト差が広がります。
- 複雑な内部構造:SLAはサポート材が必要な面積が大きいと、レジン消費量と後処理工数が増えます。FDMはサポートが比較的簡易です。
- 複数個発注:同じデータで複数個造形する場合、FDMはセットアップ費を複数個で割ることができ、さらにコスト优势が生まれます。
コスト差が縮まるケース
- 小型・高精細モデル:SLAは小型モデルでも高精度が出せるため、FDMで同等の品質を出そうとすると層厚を細かく設定し造形時間が長くなり、コスト差が縮まります。
- 塗装前提のモデル:FDMは層跡が残るため、塗装前に研磨が必要になります。SLAはそのまま塗装可能な場合があり、後処理コストを考慮するとトータルコストが近づきます。
用途別:どちらを選ぶべきか
コストだけでなく、造形目的に適した品質を得ることが重要です。以下の用途別ガイドを参考にしてください。
選ぶべきはFDMのケース
- 機構検証・組み付け確認:強度が必要で、ねじ穴や嵌合部の実寸を確認したい場合。ABSやPETGなら実用的な強度が出ます。
- 治具・ケースの試作:機能的なパーツを低コストで複数パターン試作したい場合。PLAで外観重視、PETGで強度重視など使い分けが可能です。
- 大型モデル:造形サイズが200mmを超える場合、FDMの造形ボックスが大きい機種を選ぶと、分割造形せずに済みます。
- 複数バリエーションの並行試作:コストを抑えてA/B/Cパターンを同時に試作したい場合。FDMは1個あたりのコストが低いため効率的です。
選ぶべきはSLAのケース
- 外観モックアップ・デザイン確認:投資家プレゼンやユーザーテスト用に、製品に近い見た目のサンプルが必要な場合。0.05mmの滑らかな表面はそのまま塗装可能です。
- 細部表現が必要なモデル:0.3mm以下の細いリブ、鋭いエッジ、小さな文字やロゴの再現が必要な場合。SLAは細部の再現力に圧倒的に優れています。
- 鋳造用マスターモデル:ジュエリーや精密部品の失わせ鋳造用マスターを作る場合。キャストレジンに対応しており、鋳造工程との親和性が高いです。
- 医療・歯科モデル:生体適合性レジンに対応しており、手術シミュレーションや義歯の試着モデルに使用されます。
表面仕上がりと強度の違い
コストだけでなく、品質面での違いも理解しておくことが重要です。
| 項目 | FDM | SLA |
|---|---|---|
| 表面仕上がり | 層跡が残る(触感あり) | 滑らか(ガラス様の仕上がり) |
| 寸法精度 | ±0.3〜0.5% | ±0.1〜0.2% |
| 最小肉厚 | 0.8mm以上推奨 | 0.3mm以上推奨 |
| 引っ張り強度(PLA/標準レジン比較) | 約30〜50MPa | 約30〜60MPa |
| 衝撃強度 | 高い(ABS、PETG) | やや脆い(標準レジン) |
| 耐熱性 | PLA: 約60℃、ABS: 約100℃ | 標準: 約50℃、耐熱: 約200℃ |
| 色・塗装 | フィラメント色が豊富、塗装前に研磨が必要 | 標準はグレー/透明、塗装適性が高い |
実際の試作ケース別推奨
具体的な試作シーンを想定し、FDMとSLAどちらが適しているかまとめました。
ケース1:IoTデバイスの筐体試作
推奨:FDM(PETG)+ SLA(標準レジン)の併用
筐体の外観を確認するためのSLAモデルと、内部基板の実装確認・嵌合検証用のFDMモデルを並行して試作することで、外観と機能を同時に検証できます。併用の場合、見積もり時に「外観用1個・実装用1個」と数量を指定してください。
ケース2:ギア・ジョイントの機構検証
推奨:FDM(ABSまたはナイロン)
回転や嵌合を伴う機構部品は、実際に組み付けて動作確認する必要があります。FDMのABSやナイロンは適度な強度と靭性を持ち、組み付け・分解の繰り返しにも耐えられます。
ケース3:投資家向け製品デモモデル
推奨:SLA(高強度レジン)
見た目のクオリティが最重要となるデモモデルは、SLAの滑らかな表面仕上がりが有利です。高強度レジンを使用すれば、持ち運びや簡易的な操作にも耐えられる強度を確保できます。
ケース4:医療用カスタム治具の試作
推奨:SLA(生物適合レジン)または FDM(PLA)
人体に近づける治具の場合、素材の安全性が重要です。生物適合性レジンやPLAは比較的安全で、灭菌対応も可能です。用途に応じて選択してください。
よくある質問
同じデータでFDMとSLAの見積もりを両方もらえますか?
はい、もちろん可能です。見積もり依頼時に「FDMとSLAの両方で見積もりしたい」とお伝えいただければ、同じデータで両方の工法のコストと納期をご提案します。
FDMでSLA並みの表面仕上がりは実現できますか?
FDMの層厚を0.1mm以下に設定し、造形後に研磨と塗装を行うことで、SLAに近い見た目を出すことは可能です。ただし、工数が増えるためトータルコストはSLAと近くなることがあります。
強度が必要ならFDM、見た目ならSLAでOK?
基本的にはその通りですが、例外もあります。SLAの高強度レジンや耐熱レジンは、かなり高い機械的特性を持ち、FDMのABSを超える強度を発揮することもあります。逆に、FDMのTPUは柔軟性が必要な部品に最適です。用途を詳しくお聞かせください。
納期はどちらが早いですか?
一般的に、FDMは造形速度が速いため、同じモデルであればFDMの方が半日〜1日早く仕上がることが多いです。ただし、後処理(研磨など)を考慮すると、差は縮まることがあります。
まとめ:自分に合った工法を選ぶ
FDMとSLAのどちらが「安い」かという問いには、単一の答えはありません。目的に応じて最適な工法を選ぶことで、無駄なコストを抑えつつ必要な品質を確保できます。迷った場合は、まず以下の2つを整理してみてください。
- この試作で最も優先すべきは何か(コスト/外観/強度/納期/寸法精度)
- モデルの主要な用途は何か(機構検証/デザイン確認/デモ用/実用部品)
これらを見積もり依頼時に記載していただければ、ツムリの担当者が最適な工法をご提案します。初めての方も、ぜひお気軽にご相談ください。
見積もりフォームへ または info@tsumuri.tokyo までご連絡ください。



