「量産は射出成形」は本当に正しいか
製造業でよく聞かれる「量産するなら射出成形の方が安い」という常識。確かに大量生産では射出成形が圧倒的にコスト優位ですが、数量・形状・納期・設計変更の頻度によっては3Dプリントが有利になるケースも増えています。
本記事では、両者のコスト構造の違いと損益分岐点の考え方を整理し、あなたの案件に最適な製造方法を選ぶための判断基準を解説します。
コスト構造の根本的な違い
2つの製造方法は、コストの発生構造が根本的に異なります。
射出成形のコスト構造
- 初期費用(金型)が高い:金型製作費は数十万〜数百万円
- 1個あたりの変動費が低い:材料費+成形サイクル費のみ
- 数量が増えるほど単価が下がる:スケールメリットが大きい
3Dプリントのコスト構造
- 初期費用がほぼゼロ:金型不要、データがあればすぐ製作可能
- 1個あたりの変動費が高め:材料費+造形時間が毎回かかる
- 数量が増えても単価はあまり下がらない:スケールメリットが小さい
損益分岐点の考え方
どちらが得かは「損益分岐点(BEP)」で判断できます。
簡単な計算式:
損益分岐点数量 = 金型費 ÷(3Dプリント単価 − 射出成形単価)
| 条件 | 数値例 |
|---|---|
| 金型費 | 80万円 |
| 3Dプリント単価(SLS) | 3,000円/個 |
| 射出成形単価 | 200円/個 |
| 損益分岐点 | 800,000 ÷ (3,000 − 200) ≒ 286個 |
この例では286個以下なら3Dプリントが安く、287個以上なら射出成形が安いという計算になります。金型費や単価は部品の複雑さ・サイズ・材料によって大きく変わるため、実際の案件では見積もりを取って比較することが重要です。
3Dプリントが有利なケース
- 試作・少量生産(〜数百個):金型費の回収が難しい数量帯
- 設計変更が頻繁:金型を作り直すコストが発生しない
- 複雑な内部構造・中空形状:射出成形では製作困難な形状
- 多品種少量:1種類あたりの数量が少ない場合
- 急ぎの試作・市場テスト:金型製作の2〜8週間を待てない場合
射出成形が有利なケース
- 量産(数百〜数万個以上):損益分岐点を超えた数量帯
- 設計が確定している:変更の可能性が低い最終製品
- 高い表面品質が必要:射出成形は表面粗さRa 0.4〜1.6が標準
- 厳しい寸法公差:±0.05mm以下の精度が必要な場合
ハイブリッド戦略:3Dプリントと射出成形を組み合わせる
実務では「最初は3Dプリントで試作・市場テスト → 量産が確定したら射出成形に移行」というハイブリッド戦略が効果的です。
- フェーズ1(試作):3Dプリントで形状確認・機能検証・市場テスト
- フェーズ2(小ロット):3Dプリントで数十〜数百個を生産しながら設計を最終化
- フェーズ3(量産):設計確定後に射出成形へ移行
このアプローチにより、金型製作前に設計の問題を発見でき、無駄な金型修正コストを削減できます。
まとめ:判断フロー
- 必要数量が300個以下 → 3Dプリントを検討
- 設計変更の可能性がある → 3Dプリントを検討
- 複雑な内部構造がある → 3Dプリントを検討
- 上記に当てはまらず量産が確定 → 射出成形を検討
ツムリでは、3Dプリントと射出成形の両方の見積もりを取り、損益分岐点を踏まえた最適な製造方法をご提案しています。「どちらが得か迷っている」という段階でもお気軽にご相談ください。